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「ぶはァっ!」
中から現れた白臣は炎をかき分けるように腕を振るったが、その右腕は既にかなりの火傷を負ったようだった。しかし、並の陰陽師なら間違いなく即死級の攻撃だった。流石は土御門の筆頭陰陽師、と久遠は内心で白臣を評価する。対する白臣の心中は穏やかでは無い。
「クソが!」
実戦でこれだけの傷を受ける事自体、彼にとって稀有な事態だ。余裕たっぷりな表情でこちらを眺める橋姫の顔が視界に焼き付くごとに、胸の中で怒りが増していくのが分かった。
自らが最強であるという自負。それを真っ向から否定しようとしてくる強敵。
「熱ちぃ」
しかし同時に、白臣は嬉しさを感じてもいた。何故なら、自分を追い詰めるほどの敵など、最近ではほぼ出会えないからだ。
橋姫。久遠が使役した式神は、京都・宇治に伝わる伝説の鬼神。自らを裏切った男への復讐のために鬼へと転じた執念の女。鬼の格で言えば、当然、大嶽丸の方が上だが、上位に位置する極めて強力な鬼である。
そして、その彼女を従える久遠という男の実力。目の前の女につい意識が向きがちになるが、そもそも彼女を従えるほどの力を有していなければ彼女を式神にする事は出来ない。
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