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夕暮れの街は静かだった。自分の下駄が立てる、カラコロと軽い足音が響く。どこかの家から魚の焼ける香ばしい匂いが漂っていた。
この街を離れたのはもう何年前になるだろう。思えばあの頃は夜になると平気で閉まるようなコンビニしかないこんな田舎が嫌で、進学した短大も「都会にある」というだけで選んだようなものだった。年を重ねて戻ってみれば、こぢんまりとした商店街や畑ばかりの風景も愛着を持って見られるのに。
昔遊んだ公園や、少し離れた小学校にまでふらふらと足を延ばして見て回り、やがて神社の近くを通り掛かった。
普段は人がいるのかわからないほど静かな神社だけど、今日は何やら騒がしかった。覗いてみるとたくさんの提灯と屋台、そして『夏祭り』と書かれた幟が目に入った。
(夏祭り……そういえば毎年やってたっけ。お母さん何も言ってなかったけど……)
敢えて教えなかったのかも知れない。まだここに住んでいた頃はこういう地元開催のイベント事も「ショボい」と疎んでいたから。
でも今日は久々に行ってみよう。せっかく浴衣も着ているんだし。
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