夏祭り

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 彼とは高校二年の時同じクラスになって、一学期の終業式のあと付き合わないかと誘われた。「告白された」という感じではなく、暇潰しのゲームにでも誘うような軽いノリだった。  けれどわたしは頷いた。押しに弱い性格と少しの好奇心、それから更に少しの彼への憧れで。  高校生カップルがやりそうなことは大体やって、結局二ヵ月弱で別れた。始まりと同じような、情緒の欠片もない別れ方だった。 「久しぶり。全然変わってないね」  わたしが答えると、彼は「そーか? 高校出てからもけっこう背ェ伸びたんだけど」と頭の上に手を翳してみせた。 「こっち就職したん?」 「ううん、今はちょっと休暇で戻ってきてるの。そっちは? 何してるの?」 「隣町のビデオ屋と居酒屋のバイト掛け持ち」  とりとめもない言葉を交わしながら、ああ、本当に変わらないと思った。気さくで、ちゃらちゃらしてて、軽薄で──本当に変わらない。変わったのは本人の言う通り身長と、メッシュを入れた髪型くらいだ。  痛みを伴った懐かしさが、胸を満たした。 「どーせだから一緒に見て回らん? お互いひとりってのも何だしさ」  わたしが頷く前に、もう背中を向けて歩き出してしまう。後を追い掛けながら何だか可笑しくなって、少し笑った。  二人であちこちの屋台を冷やかして回った。彼は相変わらず射的が上手かった。わたしはたこ焼きをお土産に買って、お祭り会場を後にした。
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