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「彼氏いんの?」
そう訊かれたのは別れ際だった。彼は左、わたしは右に曲がって帰る別れ道、お祭りの喧騒がまだ遠く届いていた。
「……いたけど、この間別れた。彼、奥さんがいたこと隠してて」
どうして彼に言う気になったのか──誰にも言えなかったことを、口にしていた。懐かしさがそうさせたのだろうか。
「そ、か……」
短く言った彼は、何と言ったらいいのかわからない、と書いてある顔を逸らした。下を向いて足元の小石をつま先で弄ったりしていたけど、ぽつりと「オレもさ」と話し始めた。
「オレも、彼女と別れたばっかなんだ。いつまでもフラフラして全然将来のこと考えてくれないって、フラれちゃった」
「……そう」
多分さっきの彼と同じ顔をしたわたしが答えて、沈黙が降りた。
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