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僕の話を聞いてほしい。
「彼」のことを伝えたい。
長いような、短いようなこの話は、僕が彼と過ごした日々とよく似ているかもしれない。
彼が確かにこの世にいたことを、誰かに言い残しておきたいと思う。
■
僕が、湖の真ん中の浮島に建つ家に住み始めたのは、特に理由もない、いうなれば出来心みたいなものだった。
誰がいつ建てたものかは知らないが、家財道具はそろっていた。自家発電も可能。
岸とはボートで行き来する。とても面倒だ。
だからこそ、誰も訪ねてこない。助かる。
朝起きると、紅茶とトーストで朝食をとってから、仕事をする。
僕は未成年なので、まだ仕事をする必要はないのかもしれない。でもやる。
ボートで岸へ降り、近くの畑で少しばかりの野菜の世話をすると、また家へ戻る。そして、人造人間を修理する。
僕はここでただ一人の生きた人間。
直しているのは、一体の人造人間。
野良作業と修理。それが僕の、たった二つの仕事。
野菜がなくても、食料は自動生産機が家の中にあるので、食べ物に困ることはなかった。
人造人間も、特に直す必要があるわけではなかった。
必要のない作業を仕事とは呼ばないのかもしれない。
でも僕は、世話する人間が誰もいなくなって朽ち果てる寸前の畑を放っておけなかった。
同じように、たまたま湖の家の傍に壊れて転がっていた人造人間を、放っておけなかった。
だから、僕はその仕事を毎日続けた。
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