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「私には、紅茶の抽出はできません」
「それはいいんだよ、僕がやるから」
僕と人造人間は、木製の小さなテーブル――せいぜいお茶を飲むことくらいしかできない程度の――に向かい合わせで座った。
食料の自動生産機の紅茶用トレイから取り出した葉から、熱湯で紅茶を抽出する。
その日から、午後のお茶の時間は、僕一人のものではなくなった。
アクリル製の透明なティーポットの中で、茶葉がくるくるとお湯に巻かれて踊るのを、僕と人造人間はうっとりと見つめた。
流体の運動と抽出の効果について語り合い、仮説を立てては、その結果を自らの鼻と舌で実地として確認した。
「明らかに今日は、昨日までより香りの成分がよく出ている。やはり湯の注ぎ入れ方も、抽出に影響を与えるんだ」
「ええ。現段階でもおいしく淹れられていますが、さらに、湯に当てる前の茶葉の配置も検討すべきかと存じます。それに、最適な砂糖の量についても追及の余地があります」
人造人間に、味覚センサーがついていたのはありがたかった。
「驚きだ! ふたりでお茶を飲んでいると、その品質に明確な向上がみとめられるなんて」
不思議な感覚だった。
お茶をおいしくれたいのはもちろんだったが、僕はだんだん、人造人間に「おいしい」と言わせることが、同じくらい大切な目的になっていた。
人造人間が直ってしまったので、僕の仕事は畑のそれだけになってしまった。
涼しい午前中に畑を耕すと、人造人間は傍らに立って、僕が土いじりするのを見ていた。
「小動物を駆除しましょうか」
「ネズミはいいけど、ミミズは殺すなよ。天然の耕運機だ」
人造人間は、ゆったりお茶を飲んでいるときは別人のような俊敏さで、野ネズミやモグラを捕まえてはひねった。
その様子を見ていて、額の汗をぬぐいながら、僕はつぶやいた。
「どんな生物から、人間は死に悲しみを覚えるんだろう。虫くらいじゃ全然平気なんだけどな」
「死は、悲しいのですか」
首の骨を折られて呼吸を止めたモグラを手に、人造人間が聞いてくる。
「悲しいよ。とても悲しい。人間は、よく、死の悲しみに泣くんだ」
「では、私は、とても悲しいことをしているのですね」
人造人間は、自然に動く人間そっくりの唇で、そう言った。
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