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何日経っただろう。
僕は、人造人間をベッドに呼んだ。
「今、何時?」
「十月十日、十四時四十五分です、ご主人様」
「そうか。人造人間、僕を殺せないか? できるだけ苦痛なく」
「なぜですか?」
「辛いんだ。こんなに苦痛に見舞われているのに、どんなに耐えても治る術はない。残酷じゃないか、こんなのは、死よりも」
人造人間はしばらく沈黙してから、口を開いた。
「不可能ではありません。ご主人様が望むなら」
僕は、覚悟を決めて、身支度をした。きれいな服に着替えてから、顔も洗っておこうと、洗面所へ向かう。
ふと、いい香りが鼻を突いた。
誘われるように、日なたの部屋に向かった。
そこには、いつものテーブルに、ティーセットが置かれていた。
「人造人間」
「はい」
「なんだあれは」
「お茶です」
「用意していたのか」
「ええ」
「毎日?」
「そうです」
「僕が、お茶の時間に来なくなっても」
「はい。ですが、ご主人様とご一緒していた時ほど、おいしくはございません」
「どうして」
「不明です」
窓の外を見た。
畑がある。
荒れている。
というより、なんだか、とても下手な工作のような様相だった。
「畑を」
「できませんでした。試みはしたのですが」
「君が」
「ご主人様。私は、ご主人様の死が悲しいです」
僕は、人造人間の目を見た。
「死ぬのは、……今日は、やめだ。それより、君に話がある」
「なんでしょう」
僕たちはテーブルについた。
飽きるほど繰り返してきた景色。向かい合うふたつの人影。
「君は、僕を殺さずに、ここから出ていくんだ。そして、他の人間を探して、一緒に暮らせ」
「できるでしょうか」
「できるさ。僕は、君と暮らして、初めて自分の安らぎを得た。僕はずっと、おかしいと言われていたんだ。機械いじりが好きなのも、男の格好をしているのも。だから、どちらも我慢するようになった。でも町中から人がいなくなったあの日、そんな自分は捨てたんだ。ありのままに、自分の好きなように生きると決めた。口調も服装も男のそれ。住みたいところに住んで、やるべきだと思ったことをして暮らす。君を直したのは、本当は、見てほしかったんだ、誰かに。いらないものを捨てて、本当の僕になった――僕を。そして君は、そうしてくれた」
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