僕を殺したきみのため

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「私は、ご主人様を殺さなくてよいのですね」 「君を悲しませるわけにはいかない」 「私は、いつここを出ていけばよいですか」 「……明日だ。今日は、ずっと一緒にいてほしい」  僕たちはカップを傾けた。  久しぶりに飲んだ紅茶は、渋く、苦い。でも温かくて、いい香りがする。 「私は、あなた以外の人と暮らせるでしょうか」 「君は、できないはずのこともできた。お茶を淹れられるし、きっと畑仕事もうまくなる。だから大丈夫さ」 「それらが可能になったことは、私は、エラーだと考えています」 「エラーが起きるたび、君は人間に近づいていく。人間はエラーでできているようなものだしね」  紅茶を飲み終えると、人造人間が、お代わりを注いでくれた。 「ご主人様、お願いがあります」 「なに?」 「私に名前をつけていただけませんか」 「好きな名前はある?」 「ご主人様と同じ名前を望みます」  僕は、少し考えてから、言った。 「本名はマリーというんだ。でも、心の中では、自分のことをマリユスと呼んでいた」 「では、マリユスと」 「不思議な感じだな」 「一人称も、僕に改めます。あなたのように話します」  僕は目をしばたたかせた。マリユスは、微笑んでいるように見える。見えるだけかもしれないが。いや……
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