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「どうして?」
「私は、あなたになります。あなたのように話し、あなたのように行動をとります。そうすれば、マリユスは……」
沈黙。
十数秒の後に、言葉は続けられた。
「マリユスは生きています。死の悲しみから解き放たれて」
「夢想たる希望とともにあれっていうのか。死に往く人間に」
「マリユス。あなたは、捕殺道具であった私を殺しました。他の役割と機能を与え、別の存在に作り替えました」
僕は苦笑した。
「言い方が物騒だな」
「それによって私は、捕殺の能力を失いました。あなたの死が悲しいから、もう何も殺したくない。私もまた、今までの自分を捨てます。一人で旅立った時のあなたのように」
「捕殺のための人造人間が殺すことをやめて、死に往く人間が死を越えていく……」
「エラーですね」と、今度こそマリユスは確かに笑った。
「神様のね」と僕も笑った。
午後の陽は、柔らかかった。
僕たちは、二杯目の紅茶には、まだ手をつけていなかった。
「マリユス。君にひとつ頼みがある。この紅茶は片づけないでおいてくれないか」
マリユスは静かに立ち上がると、傍らにあったほこりよけの布カバーを、ティーセットにかぶせた。
「奇遇ですね、マリユス。私もちょうど、そうしたいと思っていたのです」
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