迷子

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足早にその家に行き、どんどんどん と戸を叩く、インターホンなんて探している暇はなかった。もう、一刻も争う緊急事態だ。 「すみませーーん!すみませーーん!」 大きな声で人を呼ぶ。 「はいはーーい」 女性の声だ。その優しげな声に少しホッとする。 ガラッ。 少しふっくらとした60代位の女性が出てきてくれた。 私は焦った口調で、「本当、申し訳無いのですがおトイレを貸していただけないでしょうか?」と言った。 あぁ~~。もう駄目。本当に…。 油汗まで出てきた状態で、必至の表情だったに違いない。 その女性も、慌てて「あらあら、大丈夫ですか?どうぞどうぞ、うちのトイレで良かったら」 お邪魔しますといいながら、お腹をさすり、女性の案内してくれるトイレまで行く。 昔、母の実家にあったようなスノコみたいなトイレのドアを開け、「ありがとうございます」 とそのトイレに駆け込んだ。 トイレの壁は今は見ない砂壁で、トイレは勿論和式、しかも今どきボットン便所だった。 水洗だろうがボットン便所だろうが、壁に覆われたトイレと名の付く所であれば安心できた。 腹痛との格闘の末、落ち着いた私は、脱力感と共にトイレを出た。 「あの~~。ありがとうございました」 トイレのドアの前から一歩前に出て少し大きな声で呼んでみる。 他人様のお宅を勝手にウロチョロするのも気が引けたのだ。 「あ~~。はいはい」 明るい声で、女性が出て来た。 「大丈夫ですか? 辛そうでしたけど」 少し心配そうな表情で私をみた。 「はい。お陰様で本当に助かりました!!」 私は晴れ晴れとした気持ちで、元気に言った。
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