序章

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 逃走方面である「最寄りの駅とは逆の方向」とは、一駅分も行けば、管轄が世田谷西署になるのだ。ちなみに最寄りの駅は、現場のコンビニから歩いて5分、走れば2~3分で着く。  隣同士というのは、学校でも警察署でも あまり仲が良くない。 特に世田谷署と世田谷西署は、署長同士が同期で、若いころから何かと競争しあってきており、不仲で有名なのだ。早々に捜査本部を設置して、本庁が捜査の主導権を握ることによって余計な手柄争いのようなことに発展させない...これが、捜査一課長の「真の狙い」と考えるのが妥当だ。  沢泉は、被疑者を 西署管内に行かせることなく、早急(さっきゅう)に確保することを捜査一課長から求められているのだ。  事件そのものは、大きくもないし難解でもない。もちろん、事件に大小や優先順位があってはならない、が、実際に 事件はどんどん発生し 捜査本部は次々と設置され 管理官には、流れ作業のように担当事件が回ってくる。 (さっさと終わらせて、有給で ゆかりと旅行にでも行くかな) 沢泉は、恋人の柿崎ゆかりのことを思って 頬を少し緩めた。 と、同時にゆかりがこれから行く世田谷署に現在勤務していることを思い出した。 (まあ、生安だからな、会うこともないか) 自らの颯爽(さっそう)とした「管理官」ぶりを見せられないことに ちょっと残念、久しぶりに「職場」で会ってどんな顔をすればいいのかと悩まずに済むことに ちょっと安心、というような複雑な感情に困り、沢泉は苦笑いをしてから 表情を引き締めなおした。     
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