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第一章
沢泉は、運転係の警官が迎えに来る前に車まで行くのを常としていた。大概は 出発予定時刻の5分前には車の後部座席で資料を開いている。
いつものように 資料を鞄に入れ 身支度を整え 席を立とうとした、まさにそのとき、彼の右胸の内ポケットで携帯電話のバイブレーターが鳴動した。
「うん?」
右内ポケットに入れてあるのは私用の電話だ。仕事中にかかってくることは ごく稀なことだ。
ポケットから電話を取り出し相手を確認したとたん、沢泉の表情がさっと変わった。
今までのクールで余裕のある雰囲気はどこへやら、慌てふためいて電話に出る。
「もしもし、沢泉であります」
「わかっておる。おぬしにかけたんじゃからな」
「はい!あの先生、誠に恐縮ではありますが、私 これから捜査本部に行かなければならないのであります」
「わかっておる。だから、その前に と思って わざわざかけてやったんじゃ」
大学の「恩師」であり、『犯罪学』の世界的権威 城北大学犯罪学部の神宮路教授だ。
(捜査本部に行く前に?..ひょっとして この事件に関する情報かな?)
少し期待感を持った。
「昨日..」
(お!)
「世田谷で」
「おお!」
「おお?なんじゃ?」
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