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「もしもし、美香?」
「明美、聞こえる?」
「うん、聞こえるよ。今ね、真っ暗な部屋に閉じ込められてて、どこが出口なのか分からないの」
「頑張って早く帰ってきてよ。みんな待ってるよ?」
「そんなこと言われても、どうやって戻ればいいのかわからないよ」
「良いこと教えてあげる。明美が好きだった裕也くんね、実は両想いだったみたいだよ。明美が帰ってきたら、告白するって言ってた」
「本当!? 裕也……両想いだったんだぁ。すごい嬉しい……けど、どうやって帰ればいいのかな……。昨日の夜、私が寝る前って何してたか分かる?」
「明美、眠る前に約束したよね?」
「え……何の約束だっけ?」
「目が覚めたら、絶対にまた笑顔で会おうねって……」
「何……それ……?」
そして、美香からの電話もプツッと切れてしまった。
頭が混乱する中で、再び電話が鳴る。今度は非通知だ。
誰か分からないけど、恐る恐る電話に出てみる。
「もしもし……?」
「手は尽くしたのですが……残念です」
ドクン……
心臓が強く脈打つ。
受話器の奥から、家族や友人からの嗚咽が聞こえてくる。
「明美ぃ……どうして……どうしてよぉ……」
「……明美。お前という娘は……」
「姉ちゃん、起きろよ! 早く起きろよ!」
「明美……裕也くんが待ってるんだよ? ねぇ……嘘だって言ってよ……」
思い出した。
私は病気で入院して、手術を受けたんだ。
みんな、私と電話で会話をしていたわけじゃなく、呼びかけていたんだね。
目が覚めれば病気が治って、また笑顔で会おうねって約束したっけ。
そっか……
私は目が覚めなかったんだ。
完
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