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ケットシーを地面に下ろし、慌てて筋肉質な背中をさする。
急にどうしたんだろう。ヴァンパイアらしからぬ頑強な肉体を誇るディオンなのに……。
「苦しいのかな……ディオン!?」
小刻みに震える背中を撫でながら、伏せられた顔を覗き込む。
「ディオ……………………っ!?」
ギラリと瞳が光った。
それはまるで……欲望を剥き出しにしたあの日のエスさんを思わせる。
吹き荒ぶ欲望の嵐。
「え…………!?」
何が起こったのかわからなかった。
ボクの目にはスローモーションのように、牙を剥くディオンが映った。
大きな手でボクの華奢な両肩を掴み、叢に押し倒す。
そのままのしかかってくる確かな重み。
息のかかる距離にある、鋭い翠の瞳。
「………………ボクを……食べるの?」
まったく。『美貌』の宿命は強烈だね。
まさか、ディオンまでが食欲に負けてしまうなんて……。
こういう顔は今までたくさん見てきた。切羽詰まった飢え。
かじられそうになるのも初めてじゃない。
避けようと思えば、避けられた。
ボクだってヴァンパイアだ。生まれもった身体能力は超人的だし、体が軽い分、スピードでディオンに勝っている。けど。
油断していたのもある。
それ以上に。
突き放せなかった。いつもの彼とはあまりにも違っていたから。
底光りする瞳の奥に、縋りつくような切なさがある。
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