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「…………いいのか……………………?」
絞り出されたひび割れた低い声にも、不思議な切なさが滲んでいる。
食べられるのは困るけど……エスさんとの約束は抜きにしても……まだボクこの世界を堪能しきってないし…………でも……
「……少し、だけなら………………」
「っ!!」
こんなに苦しそうなディオンは見るに忍びない。
指一本分くらいなら……あげてもいいかな……。
別に仲がイイわけじゃないし、大恩があるわけでもない。
だけど、ディオンはボクの従兄で、守ってくれて……城にいる時だって今だって、ボクを特別視したりしなかった。
堅物な分、公平で裏がなくて。頼りになる身内だ。
だから、
「…………ディオンなら……いいよ」
「っ! シシー……!!」
ボクはそっと瞳を閉じた。
首筋に触れる息。
ヴァンパイアの息にしては、なぜだろう、熱く感じる。
「シシー……」
鋭い牙を生やした凛々しい口元が緩く開かれ、ゆっくりと近付いてくるのが肌で感じられる。
目を閉じているのに。
暗視画面のように、朧気な輪郭が眼裏に浮かび上がり、ボクに危機を知らせてくる。
「…………っひ!?」
思わず喉の奥に悲鳴がへばりついたのは、しかし、ディオンのせいではなかった。
「みゃーーーん」
突然、ザラリとした舌に指先を舐められた。
「ぁ…………なんだ……」
驚きのあまり開いた瞳にまず写ったのは、ボクの悲鳴に驚いて身を引いたディオン。
続いて、投げ出した腕にすり寄るシルバーの子猫。
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