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「出ておいで……えっと……」
あぁもう、名前がないって不便。
床は上質な絨毯で覆われているから、滑って転ぶ心配はない。けど、爪が引っかかってしまう心配は大いにある。
「出ておいで? ボクの部屋に一緒に行こう?」
みゃーーーん?
「どこ?」
みやーーー
耳を澄ませば聞こえる。子猫のか細い声。
大丈夫、ボクの耳なら捉えられる。
「こっちか」
どうもおかしい。
なぜ、閉じたドアの向こうから声が聞こえてくるのだろう。
「にゃんこ……?」
ケットシーって、空間転移とかできるの? ……なわけないよね?
音もなくドアを開ける。
この先に……?
「にゃんこ? …………ディオン」
幅のある廊下には、子猫と、いつの間に帰ったのか、ディオンがいた。
筋肉質な長身をかがめて、そっと指先をケットシーに伸ばしている。
そのポーズは……どう見ても「怖いけど触ってみたい……けど怖い!」だよね……?
無表情だけど、どことなく腰が引けて見えるし。
「っ…………管理局にはケットシーの子どもは登録されていなかった……っ」
ゆっくりと立ち上がるディオンの顔に刹那の動揺が走るのをボクは見逃さなかった。
猫を触ろうとしていたのを見られたからか……はたまた、先程のことを思い出したのか……。
あー……なんだろ、ボクまで恥ずかしくなってきた。
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