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炎が衰え、悲鳴も聞こえなくなったころ、私は村の片隅にアジア人の少女が独り立っているのを見つけた。
「お嬢ちゃん、隠れてたのかい。」
少女はまるで人形のように見えた。何も言葉を発さないのが余計にそう見せているのかもしれない。
おそらくまだ5、6歳ぐらいだろうか。肩まで伸びた真っ黒な髪がサラサラと揺れる。鮮やかな緑色の目はただ一点をじっと見つめ続けている
独りではもう生きていけまい。ペドフィリアの兵に辱められる前に、ここで殺してやろうか。
そう思い銃に手をかけた。
しかし、私は強烈な違和感に襲われ、引き金を引くことができなかった。その少女は故郷と家族が焼かれたのを目にして、おびえもせず悲しみもせず、ただすべて受け入れているような眼をしていたのだ。
「お嬢ちゃん、泣かないのかい。」
「…なんで泣くの。」
「大切な人を殺されたらふつうは泣くもんだ。」
「ママが言ってることと違う。」
ママ?この子の母親はいったいどういう教育をしたというのだ。
「これはいいことなんだって。だから泣いちゃいけないの。」
「いいことだって?君はママに何を言われたんだ。」
そう聞いて少女が語りだしたのは、空想話にしか思えない突拍子もない出来事だった。しかし、緑色の目は真剣だった。
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