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有鉗悠人が回復しないまま、日にちだけが過ぎた
逸香はトーキヨー国際バレエコンクールにおいて一位入賞を果たし、次なる国際コンクールの為の準備に入っていた
その矢先、書類を握りしめた倉木がレッスン中のフロアにやって来て、
「逸香、すぐに僕と理事長室へ」
切迫した声で逸香をレッスンバーから引き離し、恐ろしくも憔悴した顔で言った
その様子に逸香はふっと笑い、素直にレッスンを中断して倉木と共に事務室奥にある理事長室へ向かう
普段はほとんど不在にしている逸香の祖父は、聖ルシアンの学長と共に皮張りのソファに座り、厳しい顔で孫を迎え、
「どういうことなんだ、説明をしなさい」
逸香が部屋に入るなり濁りのない声で詰問した
「何のことでしょう」
すでに美月のパテルであった会長と取引の済んでいる逸香は、理事長の顔を見ることもなく悠然と答える
「お前が発表会で主役の子を脅して役を降ろさせたと言うのは本当か? しかもその主役は扶養進学制度審査会会長のクリエンテラだと言うじゃないか」
「ああ、、、そのこと」
理事長からの責めにも驚きや臆することのない逸香に、聖ルシアンの学長も苦い顔で口を挟む
「騒ぎばかり起こして、、、学園への迷惑も大概にして欲しいものだ」
二人の言葉に倉木は少なからず驚きを以て逸香を見つめ、内容を把握すべく様子を伺った
「お前のせいで私のスクールは扶養進学制度の認可を外されることになった、、、一体どうしてくれる」
逸香は蒼白な祖父の言葉にも動じず、
「僕は国内コンクールに一位入賞するほどのソリストです。
技術の伴わない奴とは踊れません。
有鉗悠人をパテルとして共有する紅羽も同じです。彼のクリエンテラには相応しくないので潰しました」
用意していた台詞を口にした
「馬鹿がっ!」
聖ルシアンの学長は、理事長によるいきなりの大声よりも、その前に吐かれた逸香の傲慢な台詞にこそ驚きを隠せずにいた
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