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聖ルシアンの学長は深い唸りを抑え、立ち上がるべくソファに浅く座り直し、
「理事長の孫の不祥事、それによる認可取消、重要な支えである審査会からの信用失墜、バレエ協会にもこれらが知れ渡るのであれば、わが校としてはルーンヌィを切り離したいところですが」
と言った所で、入り口に佇む逸香を見上げ、
「ひとまず逸香君の退学は覚悟しておいてください」
「待って下さい、学長」
倉木の言葉にも、
「私はこれで失礼します。
今後どうされるかは皆さんにお任せしますよ。
こうなるに至った事情は学園側も私も知らない方が良さそうですからな」
無表情で立ち上がると、部屋を出て行ってしまった。
重く長い沈黙の後、
「私は大きな落胆を隠せないでいるよ、倉木君。
有鉗悠人君の名も使えなくなった今、国際コンクールを機に逸香を元のオーストリア名門校に戻すつもりでいたものを、、、。
国内コンクールで一位入賞したが為に却って名が知られ事が大きくなった。
君にかけた期待は何一つ成されずこの始末だ」
そしてその落胆は逸香にも向けられ、
「お前にはもう何の価値も無くなった。
あえてヘデラ国際にエントリーして恥を広げる必要も無いだろう。今後全てのコンクール出場は辞退だ。
、、、後は好きにしなさい」
表情一つ変えない逸香の代わりに、
「理事長! ここまできた逸香を見捨てるのですか?
、、、何かあります、この一件にはきっと何かの事情があるのですっ、逸香、説明しなさいっ今すぐに!」
「、、、何もありません。
美月を降板させたのも紅羽の脚を壊したのも僕ですから」
「理事長、出場辞退は考え直して下さい!
このままでは彼の世界舞台への道が絶たれてしまいます!」
倉木の悲痛な叫びを聞いても、初老の権力者は目を閉じて天を仰ぎ、
「構わん」
と一言で斬り捨てた
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