Ironical 逸香 ーグイド・レーニー

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「、、、聖ルシアンを出て、ご両親の元へも戻らずにどこへ行くつもり?」 心配する遠野に逸香は屈託なく笑い、 「さあね、、、。 認可もなく有名でもないスクールにでも潜り込むんだろうな」 他人事のように言った 「逸香、君は以前僕がいないと『困る』と言っただろ? 『楽しくない』とも。 そして僕に与えた『疑似恋愛』もまだ終わらせてはいない」 逸香は眉を上げておどけ、 「忘れてたよ。 目的はもうない、今日で終わりだ」 捨てるように言った そしてふと壁に視線を留め、 掛けられた一枚の大きなカンバスの真下に立って見上げる その目線を追って、背後から遠野が説明した 「それはグイド・レーニの聖セバスティアヌスだよ。 贋作だがかなり精巧だ。 、、、身体のラインは違えど、どこか逸香に似てるなと思って取り寄せたんだ」 「矢が刺さってる。 、、、これが僕に似てるって?」 「ああ」 やや照れた遠野に逸香は屈託なく笑った 「両手を縛られ、身体を射抜かれてる彼が?」 敵意でもなく、嘲笑でもなく、ただ楽しげに 「このセバスティアヌスはこれまでの逸香だ。 突然キリスト教に改宗した彼はローマ教徒に矢を刺されたが死ななかった。 そのためキリスト信者から守護聖人として崇められたんだよ」 「その後は?」 遠野は逸香の身を返して背を壁に押し付け、自身の身体を密着させ、 「彼を愛し引き留める信者を振り切り、時の皇帝の前に()でて撲殺される」 「結局死ぬんじゃないか」 ふんと鼻をならす逸香に 「だから行かせたくない」 と意味ありげに額を合わせた
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