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聖ルシアン中高等学校
ここは正門前の職員棟を起点として
中、高それぞれの学習棟、礼拝堂、食堂や娯楽、読書などを楽しむ中央棟に寮棟、そして
併設されるルーンヌィバレエスクールへのレッスン棟があり、それらは年代を経た回廊で繋がれていた
消灯時間も過ぎた静かな回廊に、静かではあるけれど、周りの静寂ほどには勝てない、速い足音が響いていた
どうにか足元を照らすだけの、回廊の壁に埋め込まれたランプの灯りは走り過ぎてゆく少年の背中を間をあけて振り向くように揺らめき、再び静止を取り戻す
「先生!倉木先生!」
職員棟からバレエスクール講師の倉木を探して、レッスン棟まで走り抜け、そのレッスンフロアの扉を両手で開け放ち、飛び込んで来たのは、今日の今日、しかもたった今空港からここへやって来た
『逸香』である
レッスン生が寝静まったフロアで一人、アリのバリエーションを踊っていた倉木 慎は、逸香少年を認めると目を大きく見開き、動きを止めた
「逸香!、、、今夜はホテルだったんじゃ、、、」
喜びと共に、飛び込んできた彼を抱きしめた
逸香は腕の中から倉木を見上げ、その腕を揺すって訊いた
「倉木先生!有鉗さんがここへ来たって本当ですか?本当にっ?」
「ああ、本当に来たんだよ。これから君のことを話すつもりだ」
「ああっ、、、 先生!ありがとう、ありがとうございます」
「、、、大きくなったな、逸香」
倉木は逸香の頭を撫で、つくづく見返した
小学部の卒業から数年の間にすらりと、しかし
しなやかな身体を持ち帰った逸香が誇らしく思える
「オーストリアのバレエ学校に行ってから、もう五年にはなるのか、、、
フランツ先生からメールを頂いてるよ。君が日本に戻るのはとても惜しかったって」
逸香は倉木の言葉を飛び越して夢中で訊いた
「いつ会えますか?有鉗さんに」
「彼を先生と呼びなさい、逸香。
君の専属講師になって頂くつもりですからね。
そうだね、、、では今週中にでも」
「ああっ、、、」
逸香はもう一度飛び上がって、倉木の身体に身を寄せた
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