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「逸香君は幼稚舎から初等科まで聖ルシアンに在学していたんだってね?
とはいえ、、、この敷地は主に中高等科の生徒だけが利用するから、君にとってはどの棟も初めての施設だろう。
全ての棟は回廊で繋がっているけど、、、念のため各施設をざっと案内するよ」
オーストリアの名門バレエ学校をやめ、急遽帰国したという転入生
彼はこの聖ルシアンに併設されているルーンヌィバレエスクールの理事長の孫、逸香である
学校内の案内役を頼まれた25歳の若手教師、遠野は笑顔で彼を伴い、職員室から回廊に出、一歩先に立った
ドーム型の高い天井が続く回廊を進み、学習棟、礼拝堂と食堂、寮棟などがあることを実際に見せて案内する予定だった
手元の書類を捲りながら話を進めようと、
職員室を出てすぐ、回廊を歩き始めたところで
背後から冷ややか且つ澄んだ声を背中に受けた
「先生」
「え?」
顔立ちの整った生徒は、悪く言えば非人情そうな眼つきで瞬き一つさせず、手を差し出している
ー ああ、挨拶がまだだったか ー
と握手の為に手を伸ばすと
「書類」
彼の口元だけが薄く開いた
「案内は要りません。書類だけ頂いておきます。
後で目を通しますから、僕の部屋を教えてください」
遠野は差し出した勘違いの手を慌てて戻し、
書類を抱え直した
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