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いつも以上にボロボロの姿で扉から現れた兄は、両手には何も持たず、ふらふらと数歩歩くと、何も告げずに横になった。
「兄さん……?」
その姿を見れば、ただ事ではないことを察することはできたはずだった。
心配すべきは兄の体であり、何もできぬのなら、せめてそっと休ませてやるべきだったのだ。
だが幼く、その時空腹に耐えかねていた私には、そんな余裕さえなかった。
私は横になった兄に這い寄ると、
「兄さん。ねえ兄さん。お腹すいたよう。お腹すいたの、兄さん」
言いながら、揺り起こそうとした。
中々起きない兄を何度も揺らし続けていると、兄は唐突に、むくりと上半身を起こした。
放心したようそれを見つめていると、次の瞬間──
私は顔面を殴りつけられ、床に伏していた。
何が起きたのかわからなかった。体を起こした後、頬に激しい痛みが伝わってくると、殴られたことを理解し、涙が零れた。
「痛い、痛いよう。兄さんが、ぶったよう。父さん、母さん、痛いよう」
涙をぼろぼろと零しながら、痛い、痛いと、私は泣き喚いた。死んでしまった父と母を呼びながら。
だが、私を慰めてくれる両親の姿は、もうそこにはない。
1人、喚き続ける私。
無慈悲にも、2度目の兄の拳が叩き付けられた。
今度は痛みと衝撃で、泣くことすらできなくなった私は、床に転がった。
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