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ヴィレント
最初に記すのは、私の兄、ヴィレント・クローティスの話。
とても強く、とても恐ろしい兄の話。
初めて兄に殴られたのは、いつだったか。
あれは確か、父と母が殺され、私と兄、2人での生活が始まり、1年ほど経った頃だったと思う。
私達は、焼かれた家を捨てて、あちこちを放浪していた。
その生活が始まった時、兄が12歳、私が8歳だった。
幼い私は、行く先々の安宿の一室で、兄の帰りをただ待つだけの日々。
1人で出かけて行く兄は、短くても丸1日、長いと数週間帰らなかった。
戻ってきた兄は、いつもヘトヘトになりながらも、持ち帰った大量のパンを私に突き出すと、一言も話すことなく、横になって寝てしまっていた。
そんな毎日が続き、そして、あの日──。
いつものように出かけて行った兄は、その時、1ヶ月以上も戻らなかった。
渡されていたパンもとうに尽き、私は空腹のまま、兄の帰りを何日も待った。
その街は治安が悪かったため、幼い私には1人で外に出る勇気はなく、また、一銭も持ち合わせていない私が、もし街へ出たとしても意味はなかった。
その夜ふけに、兄は帰ってきた。
私は、空腹で眠ることもできず、兄を迎えた。
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