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それからその巨大な手は、アスファルトに横たわったことで服に付いた汚れを、敬意ある丁寧なやり方で払い落としてくれた。
「失礼シマス。デモ、ホットケマセンノデ」
吉田くんは、怒りと悲しみのためにほとんど半分停まりかかっていた心臓が、急速にその力を取り戻すのを感じた。
「ご親切にありがとうございます。ぼくはもう大丈夫です」
ちょっと笑いながらお礼を言った。それは人の世に情けというものがあることを思い出させてくれたお礼でもあった。
通りすがりのターバンの大男は、終始、王族のごとき善意と品格に満ちた態度であった。
「ダイジョーブデスカ? アア、ヨカッタデス。キヲツケテ歩イテネ」
ああ。こんな不幸に、理不尽なんかに、負けるものか。くじけるものか。見てろよ! きっと必ずいつの日か、奴らみたいに馬鹿げた軽信と暴言暴挙に身をまかせる人間なんか一人もいない、そしてぼくのような不幸な犠牲者がどこにも生まれることのない、そんなまともな世の中を作ってやるんだ。負けるものか。そしてぼくはその戦いの中にこそ、ぼくの人生を見つけてやるのだ……!
そしてインドはパンジャーブ生まれのカレー屋店主、シンさん(39歳)にもらったハンカチをしっかりと握りしめ、再び立って歩き始めたのである……。
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