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男に知り合いがいないことを心配してなのか、突然いなくなることを恐れてなのか、毎月末日に吹田は家賃の回収にやってくる。
「振込みますよ」
そのたびに男は言うのだが、返事はいつも同じだ。
「ついでですから」
ついでであるはずがない。ここは街中から離れた丘の上で、周りにはポツポツと何軒かの家があるだけだ。ヒマワリの種を置いておけば野鳥やエゾリスがやってくるし、道を挟んだ向こうの林には鹿がいて冬になれば群れて走る姿を見ることができる。さすがに熊の姿を見たことはないが、棲んでいることは間違いない。
札幌と聞いて思い浮かべる大通公園やテレビ塔、煌びやかなすすきのといったイメージとはかけ離れた場所だ。むしろ北海道を思い浮かべる情景に近い。大都市のはずれに存在する、とある場所。
夏はともかく、冬は雪で覆われた坂を登ってくる必要があるのに吹田は回収のためだけにここに来る。「ついで」と言えば、相手に気を使わせない。そんなことを本気で信じているように。
それを言ったらこの店に来る客も同様だ。愛想のない40代半ばの店主が一人しかいない店に通ってくるのは相当の物好きだろう。
客の目的は店主ではなく、自慢のアップルパイだ。多少の手間や時間をかけても食べたいと思わせる店を支える屋台骨。
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