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 14:00を過ぎればランチにくる客はほぼいなくなる。この時間になってようやく黒田は自分の面倒をみることができるようになる。  朝はアップルパイにかかりきりになるからコーヒーしか飲まない。具沢山の味噌汁を口に入れたほうが身体にいいことはわかっているが正直面倒だし、朝いちばんに吸い込むコーヒーの香りは捨てがたい。  46歳の男が味噌汁の匂いをさせてアップルパイを焼く姿は減点ものだろう。だからたぶん、このままずっとコーヒーだけを口にすることになる。毎朝味噌汁を作ってくれるような存在は黒田に不似合いだ。そして傍にいられると困る、色々と困ることになる。  ナポリタンに使うピーマンがくたびれてきたから賄にまわすことにして冷蔵庫を漁る。まだオカラは充分ある。野菜炒めで野菜をたっぷり食べることにしよう。冷蔵庫から豚肉を取りだし、海草と寒天を水でもどす。  ボウルにオリーブオイルと穀物酢を適当にいれて泡だて器でいっきに撹拌すればドレッシングができる。少しだけ醤油をたらしコショウを加えた。酢と油が乳化してトロリとしたしょうゆ風味のドレッシング。もどした海草と寒天をそこに入れて混ぜ合わせればサラダが完成した。  キャベツとピーマン、モヤシ、えのき、まいたけ、えりんぎ。それを切りわけ野菜炒めに仕上げる。野菜炒めにしては肉が多すぎるが問題ない。もちろん強火、大蒜を少しと生姜のスライスを加えて風味をつければ塩コショウで充分だ。仕上げに香りづけのゴマ油。 最後にふわふわのスクランブルエッグを作れば、朝昼兼用の食事になる。 黒田は炭水化物を極力避け、糖質はできるだけ摂取しないことにしている。しなやかに動く身体は必要不可欠だし、内臓機能はもちろん血圧を含め体内をメンテナンスしなければ支障をきたすからだ。  この食事に切り替えてから体は軽くなり、コンディションがすこぶるいいから辞めるつもりはない。店のメニューにあるナポリタン、カレーはもちろんアップルパイも食べることはしない。他人のための料理だから、別に食べたいとも思わなくなった。
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