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僕らは少し生きすぎた 無理をしすぎた。 少しばかし嘘をつきすぎた、簡単に人をだました。 そう僕らは生き過ぎた、ただそれだけのこと。 大好きな仕事を辞めた、 大好きな家族を捨てた、 大好きな趣味を辞めた それも全部...自分の為だと思ってた そう、思い込んでいただけだった。 そう自分に嘘をついていただけだった。 真っ赤に染まる両手を見たら気分が鮮やかに晴れた、 まるで嘘をついていたのは世界の方だとわかったから。 私は21になった、アブラゼミが玄関先に死んでいたそんな憂鬱になる夏の日だった。 「夢子はいつも色が白くてきれいだね」 恋人の健の言葉が耳に残る、妹の夢子の足を撫でながら投げかける言葉を。 じっと自宅の廊下で聞いていた。息を止めながら真顔で。 寂しくなんかなかった、どうせつなぎだと思っていたから。 自分には、もっといい男がいるそう思ってた、この程度の男に傷付けられて 悔しい思いをしたくなかった、だから悲しくもなかった。 ただ虚しかったのは、自分の時間と、お金を無駄にしたこと。 なんでもできる彼女のふりをした、料理もほとんどできないのにできるふりをした。 彼が帰ってくるまでに何度も何度も失敗しながらご飯を作り、「遅くなってごめんね」そう笑いながら帰ってくる彼の笑顔を見てけなげなふりをして「大丈夫、おかえりなさい」とけなげなふりをした。出来ない料理も、手料理弁当も、掃除洗濯も。一切手を抜かなかった、ちゃんとしている自分をわかってほしかっただけだから。彼にも、彼の周りにまとわりつく頭の悪そうな育ちの悪そうな女たちにも。 でも違った、いつかこの人が私を捨てた時に思い出に残りたかっただけだった。 「優子が、一番いい女だった、中身も見た目も完璧だった」そういわれたかっただけだった。
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