鮮やか

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鮮やか

今の私はもう普通ではなかった、首が徐々にしまっていく、夢子のひっかき傷が腕にひりひりとする、でもそんなことよりも夢子が口から泡を吹いて白目をむいてヒステリックに泣き叫ぶ健の声がやけに耳に響いてうるさく感じた。 夢子の首を絞め終わったら、なんだか色白い細い手が憎たらしくて、キッチンのシンクに無防備に置いてある包丁を取ってきて、夢子の細くて血の気のない腕に包丁を縦に入れた、縦に入れたらどんどんどんどん溢れ出る血が生ぬるくて気持ち悪くて、でもその血が 溢れ出る感じが鮮やかで、鮮やかでとても綺麗で笑いながら涙が出た。 この世にこんなに美しいものがあるのだと初めて胸の高鳴りを知ったから。 夢子が着ていた私の服を引きちぎって切り口の中に詰め込んだ。 切り口の中に布を入れるのに、口の中の血管や筋肉が邪魔で引きちぎった、引きちぎっていたら、骨につく肉が本当に邪魔のように思えてきてきれいに包丁で切り取った。 人間の皮膚を切るときの音も、引きちぎる肉の音もくせになってきてもう手が止まらなかった。右腕から肩にかけてそぎ取り、右足首から太ももにかけて肉をはぎ取り、左足首から太ももにかけて肉をはぎ取っていたらどんどん切れ味の悪くなってる包丁にいらだちを覚えた、その苛立ちと、隣で赤ん坊のように泣き叫ぶ健の声に苛立った。なんだかこの声すらも自分の美学の邪魔のように感じた。そんな健の横を切れ味の悪くなった包丁を持ちながらキッチンに向かう。 「もう一つ、あったような。あ、あった」新しい包丁と取り替えるときにシンクに血のついた包丁を投げつけたら、それもまた綺麗で少しの間見とれていた、せみの鳴き声と一緒に。
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