I:出会い

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「今日もお仕事お疲れ様」 カンパーイ! の掛け声と共に同期3人とグラスをぶつけ合う。大衆居酒屋でビールと枝豆で1日頑張ったささやかなご褒美。生を大ジョッキで一気に飲むのは向かい合わせに座る塚越 俊樹。中ジョッキは私の隣に座る沢村 奈々子。そして私ーー橋野エマ。全員31歳。ついでに言えば、俊樹と奈々子は交際中という関係。既に4年目なのに結婚しないのは、出来ない程仕事が忙しいから。挙式を行える程の余裕が全く無い。 「もう忙し過ぎて毎日呑まないと倒れそうよ」 「でもさ、エマ。飲み過ぎは不健康だから」 「私より飲むくせに何言ってるの」 奈々子の真顔に突っ込む。さっきの乾杯で私が半分飲んだのに、奈々子は既に飲み終えている。ついでに飲み過ぎは不健康と言った口で既にハイボールを頼んでいる。これでよく私に言えると思うんだけど。 「私は俊樹という面倒を見てくれる相手がいるけど、エマは居ないじゃない」 1人暮らし歴11年目を迎える私は、グッと黙る。この2人は休みになると互いの部屋に行ったり来たりしているらしい。 「カレシ持ちだからって人の痛いトコつつくのは、ヒドイわよ」 「私のは親切だから」 ムゥっと言い返せば、更に切り捨てられた。確かに親切心なのは知ってる。私がヒモ男に近かった元カレと別れてから既に5年は経っている。
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