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群青の空。
鈍色の雲。
銀白の粉雪。
真紅の生命。
おおよそ目にするどの色にも当てはまらない。
どこか蠱惑的なその色に、ククロウは革手袋を外すと、白く罅割れた指先をそっと伸ばした。
「触れるな」
突如、静寂を切り裂くように――。
冷たいモノが、ヒタリと首筋に添えられた。
「……ッ!」
気づくと、長い白銀の刀身が首の傍から伸びていた。
少しでも動けば、首の薄皮など簡単に裂いてしまうだろう。
「触れるな。ソレは汝が触れてよいものではない」
背後に何かが立っていた。
ソレはまるで生気がなく、屍人のような気配で、この世界そのもののように冷たい。再度警告として発せられたその言葉には、明確な殺意。そして刀身には殺気が灯っていた。
ドクッと大きく心臓が脈打ち、冷たい血液が全身を侵してゆく。
「……なん、だ……お前は」
震える声で、やっとそれだけを絞り出す。
輝く水面越しに垣間見えたその姿は、純白のローブに覆い隠されている。
その姿を、表情を、窺い知ることはできない。
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