夢の中の君に夢中

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僕は人が星の数ほどいるような都市を一人で歩いていた。 しかし僕の目にその人々は、ぼんやりととらえられるだけだった。 その真ん中に焦点を集めたかのように、はっきりと写る女性。 彼女の名前を僕は知っていた。 彼女と出会ったのは、とある喫茶店の一番奥の席。 僕は彼女の前まで歩いていくと足を止めた。 後ろから押し寄せてくる人波が、迷惑そうに僕と女性を追い越して行く。 いつもと同じセミロングの黒髪を揺らして、微笑んだ。 いつもと同じこの場所で、毎日彼女はそうやって微笑む。 その度に、僕の心臓が飛び出そうになることをきっと彼女は知らない。 そして手をとって僕を誘って行く。 人波を掻き分けて、あの場所へ。 僕が初めて出会ったあの喫茶店だ。 そしてまた話をする。 日が暮れてしまいそうなほど、長い話を。
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