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秋に入っても鳴き続けなければならないのだから蝉も悲しい生き物である。
これが人間ならなぜ結婚をせがまれるのかと反発するだろうが、残念ながら彼らにそこまでの知性はなく今日も独り懸命に鳴いている。そんな夏が終わってもパートナー探しに必死な蝉の声を背景に、田舎の山奥の寺で葬式が行われていた。
俺は芳名帳に『瀬津三晴』と自分の名前を書いて、周りに倣って焼香し、昔話で盛り上がっている昔馴染みに適当に挨拶を返してから、庭園の風景をぼけっと見ていた。すると、小学生頃の同級生が声をかけてきた。
「お前、恩師の焼香サボるなよ」
「サボってねえよ。クラスの女どもが来たから空気読んで出てっただけだ」
「お前クラスの女子から嫌われてるもんな」
「昔の事いつまでも言ってこられるのが鬱陶しい」
こんなイケメンを捕まえてと言うと、自分で言うなと同級生に小突かれる。確かに自分の顔は十人並みでしかなく、仕事だって地元企業の経理という至って平凡でしかない。ここに集まっている友人兼同級生だって、小学校の先生の葬式でもなければわざわざ集まりもしないくらいの仲ばかりだ。大学を出て就職して真面目に働いて…。
俺の人生はつまらないなと葬式の席で不謹慎ではあるが、そう思わずにいられなかった。そんなセンチメンタルに浸っていると、ざわ、とどよめきの声が式場からあがった。
「なんだ?」
「さあ?クラスメートに誰か有名人いたか?」
思い返すも小学校の頃の同級生で優秀なやつはだいたい県外へ就職してしまい帰ってくる気配もない。芸能人になったやつがいたなと思い出したがあいつは去年失踪した。
野次馬根性で葬祭場へ向かいそっと中を覗いてみると、視線の先にはちょうど焼香台の前で両手を合わせて一礼している人物が居た。
黒と茶ばかりの頭が並ぶ中、電灯の光を反射する金色はあまりに浮いていた。高い鼻筋も顔の骨格も日本人のものではない。
そいつは俺に気づくと、周りの遠慮がちな視線を全て無視して近寄って来た。友人が俺とその男を交互に見るが今は返事をしている余裕がない。
「久しぶり」
高校卒業から会ってなかった人がそこに居て、自分に笑いかけていた。
あの頃から10年近く経っているが、未だに変わらず浮世離れした雰囲気を纏っていた。まつ毛の色も金色で、どうやったらそんな色が出るのか不思議な青色の目をしている。
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