季節遅れの蝉

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 クラスの新学期、誰もが黒く焼けた肌をしてきた夏休み明けの登校初日、教室は転校生が来るらしいという噂にざわめいていた。  男子だろうか、女子だろうか?皆で想像を膨らませた。  そして先生が教室の扉を開けて入ってきて、皆の期待は明後日の方向に裏切られた。  先生の後ろからついてきた子は、金髪で鼻が誰よりも高くて薄い唇を真一文字にしていた。真っ白な肌は田舎の山あいの風景に一切馴染んでいなかった。 「皆、夏休みどうだった?」  先生が明るい声で尋ねるも皆の視線は隣に立つ謎の生き物に向かっていた。  先生はその子の名前を黒板に大きく書く。 「今日から皆と一緒のクラスになる、鈴木・クリストファー・夕也くんです」  先生の声が虚しく響く。名前を教えられても教壇と最前列の机の間には見えない大きな壁が出来ていた。  茶化したら怒られるかもしれない、でも奇抜な容姿以外どんな子なのかもわからない。そもそも言葉は通じるのか?なんで日本に住んでいるのに金髪なのか?ビックリマンシールが伝わるのか?  余計なことは言わない方が良い。騒がしかった教室はしんと黙り込んでしまった。  そんな中、クラス一の馬鹿だった俺だけが空気を読めていなかった。木があれば登るし、鉛筆はサイコロにするし、テストの裏は自由帳だった。そういう目の前のものしか見えない生き物だった。  手の届くところに金曜ロードショーから飛び出してきたような子が現れたことに興奮して、前めのりになりながら先生に質問した。 「先生!その子、外国人!?」  渡りに船だと言わんばかりに先生は俺の質問に絡めて紹介を始めた。 「そうよ。でもほとんど日本育ちで喋れるから、髪の色とか不思議に思うかもしれないけど、皆仲良く…」 「そんなことないよ!」  先生の声を遮って、俺は高らかに宣言してしまった。 「クラスの女子が皆ブスに見えるくらい、きれいだよ!」  せめてもう少し言葉を選べなかっただろうか。  次の瞬間、俺へのブーイングが大爆発し見えない壁は見事に消えて無くなった。  ずっと硬い表情だったクリストファー改めクリスも「あーあ」と気の抜けた顔で笑ってた。
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