季節遅れの蝉

8/13
前へ
/13ページ
次へ
「見知らぬ場所の女ならありえる」 「お前が『何コイツ』な目で見られても俺は助けない」 「それは、助けてください」  想像しただけで胸が痛む。 「嫌だ。だいたい彼女が本当に欲しいのか?」 「いいえ、エロいことがしたいだけです」 「死ねば良いのに」  軽蔑するような目で見られるが俺は反論する。 「男ならエロいことしたくて当然だろ?」 「俺にはよくわからない」  どうでもよさげに答えて、クリスはノートを見る。俺はそんなクリスを見ていた。夏だというのに全く焼けていない白い頬を汗の粒が伝った。  見てはいけないものを見た気分だった。 「暑い…」 「女よりも、クリスと付き合いたい」  このバグった発言は暑さのせいだと思う。 「は?」  ようやくクリスが俺の方を見たとき、俺はもう詰めよって肩を掴んでいた。クリスは驚いた顔のまま押し倒された。  見慣れた俺の部屋の床にクリスが寝転がっている。子どもの頃から見続けた美しい生き物が俺の下で息をしている。  それだけで段々と腹の底から身体が熱くなってくる。その熱の赴くままに、もっと触りそうになったところで腹に鋭い蹴りを喰らった。  痛みにのたうち回る俺に、クリスは冷たく言い放った。 「二度と話しかけるな」  その宣言の通り俺たちは高校卒業まで一言も話すことは無く、クリスは何も言わず海外の大学に行ったことを人づてに聞いた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加