大火

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ショッピングモールの2階にある雑貨店、ひとりの女性が浮かない顔で商品を眺めていた。 「んー、可愛いけどプラスチックじゃね……」 女性はファンシーなデザインのフォークを手に取りながら、心底残念そうにつぶやく。 その手には、包帯が巻かれている。 彼女の名は光希(みつき)。 22歳で現在無職の彼女には、光も希望もない。 人に言い返したり、怒るのが苦手な光希は、大人しすぎるせいか、子供の頃からよくいじめられた。 それは社会人になっても変わらず、明らかに光希が悪くないのに、理不尽に怒られる事がおおかった。 理不尽に怒られる事に関しては、もう慣れていたからほとんど無関心でいた。 光希なりに対処するコツを掴み、怒鳴り声をバイクや改造車の吹かし音と思い込めば、なんら苦ではなかった。 しかしひと月ほど前の事……。 その頃光希は、コンビニで真面目にバイトをしていた。 仲のいい常連や、仲間がいてやりがいもあったのだが……。 「ねね、光希先輩。1時間前にさ、常連さんにアメリカンドック50本用意しといてって言われたんだけど、今日に限って在庫なくて。光希先輩と仲のいい赤いバンダナのおっさんなんだけど、先輩代わりに謝っといてくんない?ウチより先輩のがあっちも許してくれるだろうしさー。何より先輩、怒られ慣れてるっしょ?」 歴の浅い女子高生が、あろう事か光希に濡れ衣を被れと言ってきたのだ。 流石の光希も耐えかねて、彼女に怒鳴り散らした。 結果、店長はロクに光希の話も聞かずに解雇。 両親は同情するどころか、光希を責め立てた。 「アンタが我慢すればよかったんじゃない。高校生ってまだ未熟で子供なのよ?子供相手にキレて恥ずかしくないの?」 「正社員にならずバイトで甘えてたくせに、無職になるとは何事だ!はやく仕事を探せ、金食い虫に用はない」
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