大火

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光希は心の傷を癒す間もなく、仕事を探し出した。 わずかな対抗心で、正社員雇用の求人を見つけては、面接へ行った。 しかしなんの資格もなく、コンビニバイトしか経験のない光希を欲しがる会社はなかった。 “働きながら資格がとれちゃう!”“未経験大歓迎!”と書かれた求人を出す会社に電話しても、「スキルのない方は……」「未経験はちょっと……」と面接すらさせてもらえなかった。 毎日の様に履歴書を書いたり、面接へ行ったりしているというのに、両親は毎日嫌味を言い続けた。 そんな日々に追われ、半月で光希の心は折れた。 就職活動を完全に辞め、死ぬ事ばかりを考えるようになった。 光希のスマホからは就職活動関連の検索ワードが消え、代わりに自殺関連の検索ワードで埋め尽くされていく。 そして死について考えたり調べたりするうちに、光希の中である想いが強くなっていく。 “死ぬ時くらいは、可愛く、美しくいたい” そのためにはネットの知識ではダメ。 光希は理想の自殺を求めて、様々な店を歩き回っている。 そして現在、未だに納得のいく死に方が思いつかず、雑貨店でただひとりだけ、途方に暮れている。 「うーん、雑貨店になんかヒントでもあればと思ったんだけどなぁ……」 光希は雑貨店を出て、通り過ぎていく店を横目に、思考を巡らせた。 「うーん……。……ん?」 何かが焦げたにおいがした気がして、その場に立ち止まる。 それと同時に、あちこちでけたたましいベルの音が鳴り響き、スプリンクラーも作動する。 ついさっきまで楽しそうに買い物をしていた客達は悲鳴を上げ、我先にとエスカレーターに向かって走っていく。 「走ったり押したりしないでください!」 警備員やショップの店員達が、客達を誘導する。 ショッピングモール内はあっという間に、煙が充満しだした。 「これ、チャンスじゃない?……可愛くも美しくもないけど」 光希は人がいなくなったショップの更衣室に隠れると、人の気配が消えていくのをじっと待った。 その間煙はどんどん濃くなり、目や喉が痛くなってくる。
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