ドルフィンライダーの方程式

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「え、何それ」マリリンが泣き止み、目をぱちくりさせる。「あたし、そんなことしてないよ。ただ、あたしがあそこで艇を蹴れば、艇が上に上がるかな、と思ってさ、頭を下にして命綱にぶら下がった状態で、思いっきり両足で蹴ったんだよね。そしたらいきなり吹っ飛んじゃってさ……命綱、切れたのかと思ったよ……それであたし、ああ、これは死んだ、って思って……そこから、記憶がない」 「……」 前言撤回。やっぱこいつ、何もわかってない。 「あのなあ。命綱にぶら下がった状態で蹴ったって、艇は上がらねえよ。それが出来たらプロペラントなんかなしで加速できるじゃねえか」 「え、そうなの?」 「ああ。ってことは……どうも、君が蹴りを入れた瞬間、リールのロックが壊れたみたいだな。もともと重力下用の装備じゃなかったようだし。まあしかし、そのおかげで君の意図通りにはなった、ってことだ」 「???よくわかんない……」 「いいか、生物だけじゃなくて、物理も勉強しておけ。宇宙で暮らすならな。それじゃ、お大事にな」 「あ、待って」 「え?」部屋から出ようとした俺は振り返る。 「スキッパーって、意外に若いね」 「はぁ?こう見えても三十過ぎてんだぞ。君の二倍近くは生きてる」 「そうなんだ。そんな風には見えないけど。でも、ほんと、ありがとう。あたしの命の恩人だよ」 「……」 俺はそれに応えず、黙って手を振って、その場を後にした。
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