ドルフィンライダーの方程式

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今俺が乗っている艇は飲み薬のカプセルのような、前後が半球状の円筒形をしている。コクピットは当然前部の半球の中にある。この艇は発進にほとんど推進剤(プロペラント)を必要としない。リムポートから切り離されるだけで、それはそのままステーションの車輪部(リム)が描く円の接線方向に、ステーションの自転の線速度で飛んでいくのだ。その代わり、ステーションは自転速度を若干失い、その本体も反動で俺と反対方向にほんの少しだけ加速される。まあ、質量差を考えればいずれも全く無視できる範囲だが。 操縦は全くする必要がなかった。ほぼ全て機械に任せていればいい。実際、定期便は完全に自動化されて無人運用となっているのだが、臨時便には不測の事態に備えて人間のパイロットが搭乗することになっていた。今回はそれがこの俺になった、というだけの話である。と言っても、コクピットは一人分のスペースしかなく、しかも与圧も全くされてない。というわけで、俺はEVA (Extra‐Vehicular Activity:船外活動)スーツに身を固め、機械類に囲まれたシートに縛り付けられているのだった。 そう。乗員(クルー)は俺一人……のはずだった。「それ」がフロントウィンドウの手前に姿を現すまでは。 「!」 俺はわが目を疑った。EVAスーツの頭部が、いきなり目の前に現れたのだ。ウインドウをコンコンと叩いている。とっさに俺は右耳を指さす。通信装置を使え、というハンドサイン。俺も無線をGUARDチャンネル(243.0MHz:国際緊急通信周波数)に合わせて送信する。 「聞こえるか?Do you read me?」 『聞こえます』 若い女の声だった。完全にネイティブな日本語のアクセント。日本人のようだ。 「何者だ?なぜそこにいる?」     
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