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しかし、カプセルにはパイロットと積み荷の質量のみを想定した燃料しか用意されておらず、このままでは彼女の質量が余計になって十分減速できずに地面に衝突することになる。そうなれば彼女もパイロットも、そして血清を待っている人たちも、全員が死んでしまうのだ。積み荷を捨てるわけにもいかず、少女は宇宙船の操縦ができないため、パイロットが代わりに犠牲になることもできない。この作品の結末は、少女が宇宙に投棄されて終わる。
今は、まさにそれにかなり近い状況と言える。「さくら2」の建設途中の区画で作業中に大きな事故が起こり、死傷者が多数出て血液が足りなくなったため、俺が臨時便で「さくら1」から血液を運ぶことになったのである。しかし、この艇も「さくら2」ドッキングのための減速用推進剤は最小限しか積んでいない。密航者が乗ったままでは、減速が不十分でポートに激突するのは間違いない。
というわけで、こういう場合は密航者をそのまま投棄する、というのがルールだった。それを定めているのが、通称「冷たい方程式」条項と呼ばれるものなのだ。
そういえば、「冷たい方程式」の密航者の少女も、マリリンって名前だったような……偶然の一致なんだろうか?
まあでも、「冷たい方程式」と違うのは、彼女がEVAスーツを着ている、ってことだ。だから艇から放り出されてもしばらくは生きていられる。酸素が続く限りは。
俺は無線のチャンネルをGUARDに戻す。
「マリリン、酸素の残量は?」
『あと30分くらい』
「って、さくら2に着くギリギリじゃねえか!」
『だって、それ以上必要ない、って思ったんだもん!しょうがないでしょう!』
逆ギレかよ……
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