第1章

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 カラン、コロン、カラン、コロン。 「はな~、どこにいるだ~」  次の日村中大騒ぎになりました。 「じょ、成仏できねえでいるのかなあ」 「お盆だから帰って来たんだべ。あした、送り火に乗ってあの世へもどるべ」 「も、も、もどんなかったら、どうなるだ」  色々な話が飛び交いました。寺の住職に相談しますが、話しかけられても絶対返事をしては駄目だと言う以外何一つ為になることは聞き出せませんでした。 「誰かの悪戯だべえ」という声に、「いや、あれは確かにとよの声だったべ」と答える者が大半です。酒が入ると気が大きくなり「確かめてみるべ」と言う者も現れましたが、本気で言ってないのは一目瞭然です。そうしたお盆二日目が終わろうとしています。空は血を連想してしまいそうな真っ赤な夕焼けでした。  その日の夜は村中が息を潜めていました。夜十二時を過ぎました。  カラン、コロン、カラン、コロン。 「はな~、どこにいるだ~」「はな~、へんじしておくれ~」  人々は耳を塞ぎ震える夜を過ごしました。  庄屋の家でも息を殺して静まり返っています。  カラン、コロン、カラン、コロン。  下駄の音が段々近づいてきます。家の前で音が止みました。カラン、コロン、カラン、コロン。突然音が大きくなりました。直ぐそこ、庭先に居るのが分かります。 「はな~、どこにいるだ~」  夏だというのに、庄屋は頭から布団を被り必死に耳を塞いで震えております。 「はな~、花はいねえべか」  トン、トン、トン。雨戸を叩く音です。 「はな~、花はどこだ~」  ドン、ドン、ドドーン。今度は激しく雨戸を叩きます。 「しょうやさま~ はなが、花がいなくった~」  ドン、ドン、ドドーン。  今にも雨戸は壊れそうです。庄屋は体の震えが止まりません。 「しょうやさま~ はなをさがしておくれ~」悲しげな、おそろしい声が聞こえます。  ドン、ドドーン、バリバリッ。到頭、雨戸が壊れ、とよは家の中に入って来ました。 「しょうやさま~」 「は、は、は、はなは死んだんだ。ここにはいねえ」  庄屋は恐ろしさのあまり、思わず声を掛けてしまいました。すると耳元でチリーンとひとつ鈴の音がしました。 「おっかあ、はなはここにいるぞ」  花の吐息が庄屋の耳たぶを撫でました。
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