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一緒に砂浜を歩きながらたわいもない話をした。
「ノアは山育ちなの?」
「そう。木登りが得意で、よくライラの実を取りに登ったな」
雲がかかって月が陰り、辺りが暗くなった時。
その瞬間にルーシェンの姿が消えて、ノアははっと瞬きした。
その瞬きの、ほんの短い一瞬に、遠い遠い過去が視えた。
遥かな昔の、違う時代の違う国。
温かい海辺の国でルーシェンとノアは恋人だった。
誰にも内緒の、秘密の恋人同士だった。
添い遂げられなかった、大切な人。
敵国から忠誠の証の人質として送られてきた、小さな小さな王子様。
幼くて無邪気な王子をみんなが愛して可愛がった。
けれども幼い王子を送りこんだ敵国は数年後、王子を見殺しにしてノアの国に侵攻してきた。
誰かに殺されるよりは、ノアの手の中で逝きたい。
少年になっていた王子はそう望み、ノアはその望みを叶えた。
「海はどこにでも繋がっているでしょう? きっとまた会えるね」
ルーシェンが囁いた最期の言葉。
毒入りの酒を飲んだルーシェンは眠っているかのようだった。
誰の手にも触れさせないようノアはこっそり船を出し、恋人の亡骸を海に葬った。
「ね、また会えたでしょう?」
そう聞こえたと同時に目の前に月の光が戻ってきた。
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