第一話

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親が役人だったということもあり、私は小さな頃から比較的豊かな暮らしをしてきた。  書物を読むのが何より好きだった私は当時では珍しく、成績優秀者として成人前に中央での仕事を任せられるようになったのだ。それを見て安心したのか、すでに老いていた両親は家屋と家財を私に預けて、故郷へと緩やかな余生を送るために戻っていった。  袁紹、字は本初。四代に渡り、朝廷の最高位の官職「三公」に就いてきた名門袁家の長子だ。出で立ちは気高く、若くして既に、見る者の目を引き付ける気風漂う男だった。歳は二つ上、私と曹操は彼を「兄貴」と呼んで慕っていた。  そして曹操、字は孟徳。朝廷の腐敗の元を作り出した「宦官」という身分の出身だったが、本人はそれを酷く恥じ嫌っていた。だからこそ宦官嫌いで有名だった兄貴も曹操には心を許していたのだろう。私とは同い年で、互いに「兄弟」や字で呼び合う仲であった。  仕事終わりや休暇をもらった日など、私達はずっと行動を共にするほど仲が良かった。そんな、ある日の出来事を話そうか。 「なぁ、兄貴、孟卓(張バクの字)…この中で一番女に慕われるのは誰だと思う?」  昼間から酒場で、酒を交わしている三人の青年。その中で最も身長が低く、眼に鋭さを持った曹操が、ふと呟くように問いかける。  張バクは、女性に対する興味関心は人並みだと自称していた。しかし曹操と袁紹は、自他ともに認めるほどの女好きである。酒の入った会話になると、必ずと言っていいほど女性関係の話になった。  そして必ず、このような展開になるのだ。 「曹孟徳、比べるまでもないだろ?」 「いやいや、兄貴の女遊びは俺から言わせてみればまだまだ子供ですよ?」 「酒に酔ってもう寝言をほざくか?」 「兄貴こそ、酔って夢でも見てんじゃないですか?」  こうなった二人を宥めるのはいつも張バクの役目であった。「まぁまぁ」と二人の間をとりなし、少し話題を逸らすことにする。 「落ち着きなよ。そういえば、二人の好みの女性というのは、どのような人だ?」  二人は考えるように少し悩んで、店の外へと顔を出した。
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