第一話

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「分かりました、そこまで言うのなら。好みの女性について、いくらでも話しますよ?」  曹操が、怪しくニヤリと笑う。張バクが自らの失言に気付くのはその瞬間であったが、時すでに遅かった。 「街に出て自分が好みだと思った女に好かれたらお前の勝ち、今日のお前の飲み代はゼロだ、さらに俺の非も詫びよう。だが避けられでもしたら、お前の負けだ。罰は特にない、お前が恥をかくだけさ」  非常に意地の悪い提案だ、曹操らしいとも思った。袁紹は手を叩いてその提案に賛同する。兄貴が決定したことに易々と逆らえるわけもなく、自分が恥をかけば良いだけだと、張バクは眉間を揉みながら席を立った。  いざ街に出ると、いつも歩いているはずの道が全く違う風景に見える。それもそうだろう、未だかつて女性を物色する為に街中を歩いたことなんてなかったのだから。店中から顔を出してこっちを見ているあの二人の視線も、妙に腹が立つ。  好きな女性なんて考えたこともなかった。屋敷に女性なんておらず、武学に励む弟と自分の二人がいるのみ。使用人を雇う金があるなら書物か、施しをするかに費やしてきたからだ。このまま戻って二人に頭を下げてこようかと、そう考えた時だった。 「あの、すみません…何か恵んでいただけないでしょうか」  自分の脇に立っていたのは、自分よりも一回りも小さい少女だ。痩せた体に、ボロボロの衣服。別に珍しい光景ではなかった。特に施しをよく行う人として有名な張バクには毎日の様に見る光景だ。廃れた政治、各地では賊が蔓延って、流民や戦争孤児などは全国各地に溢れている。
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