第一話

5/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「定期的に家の蔵を開けてみんなに平等に提供している。誰かを贔屓にしたりすると他の人達が気を悪くするのだ、だから申し訳ない。明後日の朝に屋敷の前に来てくれれば、それなりのものを提供しよう」  酷な話だが、どうしようもなかった。贔屓をすると、他の人間もこぞってやってくる。そうなると際限というのが無くなってしまい自らを滅ぼす。昔、袁紹と曹操に口を酸っぱくして、そう注意されたのだ。 「六日前程、家族は皆、宦官に処刑されました。賄賂を拒んだためです。父は執金吾(首都の治安を維持する職)を勤め、生活には困っていませんでした」  少女は小さく父親の名を告げる。突然明かされた名前は、理由が不明な「反逆罪」として処罰されていた人物として、確かに知っている名であった。  受け答えからしても普通の流民ではなく、しっかりとした教育を受けてきた者のそれである。どうやって逃げ出したのか、きっと両親が尽力したのだろう。物乞いなどするような身分の少女ではない、つまり、恥を忍んでの懇願であった。 「お願いします、数日物を口にしてないのです。それに私は罪人の身、名乗る事も出来ません。義の人である張バク様とお見受けしてのお願いです、私に、新しい名前と少しの食べ物を、どうか」  声は震えていた。幸い周囲に目立ってはいない。親に救われた命を危険に晒す秘密をここまで打ち明けたのだ。気づけば張バクは、笑顔で少女の手を握っていた。 「君に紹介したい人がいる、二人とも私の親友であり兄弟なのだ」 「え?そんな、やめ」  少女の本気の抵抗は弱く、部屋で書物を読んでばかりの張バクでも楽に引けるほどだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!