第二話

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第二話

「もしかして、それは奥方様ですか?」 「そうだ、懐かしいな」  昔を思い出し、鼻の奥がツンと痛くなる。ひとつ大きく息を吐くと、気休め程度には楽になった気がした。もうあのような日々は戻ってこない。知らせでは「僑」も既にこの世にはいないらしい。  そんな張バクの心中を察したのか、黄嘉はうつむき、主人の次の言葉を待つ。 「それじゃあ、次はこの人間について聞いてみたい。お前は『董卓(とうたく)』を如何に思う」  明らかに黄嘉の表情が変わった。  数年前、帝を操り、何もかもを自らの欲のままに動かし、残虐な行いを続けて都を火の海にした悪魔の名前がその董卓である。黄嘉の父や母も、董卓に殺された。商人であった黄嘉の父母の金や家財を奪う為に、脅されもせず突然殺されたのだ。 「皮を剥ぎ、肉を犬に食わせてやりたい。何度殺しても、殺したりなかった存在です」 「たしかに奴はこの世の害悪の象徴だった。しかし、董卓とて最初からそうであったわけではない。こうなる前の董卓は、私が心から尊敬していた『英雄』だったのだ。特にお前には知っていてほしい、董卓が、いかなる人物であったか」
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