第二話

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四百年続いた「漢」朝廷も、もはや終わろうとしていた。早くして崩御する皇帝が何代も続き、朝廷の権力は皇帝の世話役でしかなかった宦官に集中。賄賂や汚職が蔓延し、官職も金を払えば買える程だ。当然政治は機能せず、全国では貧困に苦しむ民の反乱が相次いだ結果、賊が増える事態につながった。  そんな中、およそ三十万にも膨れ上がった黄巾賊による「黄巾の乱」が発生。  兵力差も劣勢である中、黄巾賊に対して善戦していた将軍「盧植(ろしょく)」は宦官への賄賂を拒み免職となり、その抜けた穴に入ったのが「董卓」であった。 「わざわざこんな最前線の戦場に足を運んで、苦労をかけたな。張バク殿」 「いえ、これも仕事ですから。董卓将軍の勝利を願い、朝廷から贈り物を届けるようにと。駿馬や食料、美酒などがあります」 「フン、とか何とか言いながら、宦官の腐れ野郎共に渡す賄賂の受け渡し役であろう。賄賂はもう用意してある、持っていくといい。名士と名高い貴殿も、面倒な立場だな」  董卓は、喜怒哀楽のはっきりとした剛直な人物であった。体は逞しく、規格外の大きさ。張バクも身長は高い方だったが、董卓は上背も厚みも比較にならないほどである。  流石、異民族の幾度の侵攻を食い止め、百戦百勝したと言われる噂に違わぬ豪傑だ。第一印象から、張バクはそう思った。  されど不思議と威圧感はない、むしろ親しみ易い人物である。よく笑い、貰った恩賞は全て部下や兵士に与え、決して身分などで人を差別しない人だった。 「張バク殿、儂は辺境の地の、ただの名も無き武人に過ぎなかった。しかし徐々に功績を挙げ、今では最強の呼び声が高い騎馬兵を持つ有力な将軍の一人となった…そこで分かったことがある。儂は、この国を変えたいのだ。身分など関係なく、流民でも有能ならば国の頂点に立つことが出来るような、そんな国にしたい。そうすれば常に有能な人間が国を治め、永久に亡びない」  美酒の入った樽を一つ空にして、董卓は酒宴の席で張バクにそう語る。まるで子供の様に、剛直な豪傑が夢を語っていた。そして張バクは、その夢が到底成しえないものであることを同時に理解した。董卓の語る世界は、中華の歴史の根底にある、皇帝制度そのものを否定している内容であったからだ。  夢は所詮、夢だ。そう頭では分かっていても、その夢に張バクは耳を傾ける。この老将は曹操にどこか似ている。そう思った。
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