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最終話
街亭は出陣した王平と入れ替わるように張コウが進軍し、城を占拠。高翔の駐屯していた烈柳城は、司馬懿軍の別動隊が占拠していた。
北伐の為の食糧庫を失った。馬謖軍は全滅にも近い損害を出し、王平軍、高翔軍もまたその被害は相当なものであった。魏延の到着が遅れれば、間違いなく全滅していただろう。
それに対して、曹真軍を相手にしていた趙雲の軍は、撤退戦で倍以上も差のある大軍を相手に全くの損害を出していなかった。むしろ追撃してきた敵を追い散らし、兵糧などを奪ってくるような活躍を見せていた。
空気は重く、北伐を目前にしていたという思いの強い文官武将はそれぞれに涙を落としている。しかし、魏延の顔だけは比較的明るい。
「丞相譲りの冷徹な切れ者だと思っていたが、お前もやっぱり人間だった。失敗することもある、それを恐れてたら軍人は務まらん。お前は若くしてそれを知ることが出来たのだ。もし兵卒に落とされてもこの魏延が面倒を見てやろう、そう気を落とすな」
何故、魏延が兵に慕われているのかがよく分かった気がした。
それでも馬謖の表情は重く、まるで生気を感じられない。王平の目から見て、馬謖はこの撤退の帰路の中で酷く痩せてしまったように思える。
馬謖は旗下の兵に命じ自らの体を縛る。全ての文官と武将が並んでいる中、王平と魏延、高翔、そして両腕を後ろで縛った馬謖が諸葛亮に帰還の旨を報告した。誰一人として馬謖を責める者はいない。しかし、行き場の無い悔しさや無念の心境が痛いほど肌に刺さる。
「魏延都督、被害の報告をせよ」
「我が軍の損害は軽微。王平は旗下五千の兵の半数を、高翔も一万のうち三千を失っております。馬謖の軍は、五千の兵が敵に降伏、さらに一万以上が討ち取られたり帰還の途中で死んでおります」
「都督の迅速な行動が無ければ、街亭の軍は全滅を免れなかったであろう。よく働いてくれた」
諸葛亮の顔には疲労の色が濃い。張りつめた獣のような緊張感は、今やどこにもない。
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