春のひとひら

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 結局、後日放送されたのはその四十分の一。三分にも満たない時間だった。そのたった三分のインタビューをおじいちゃんはお母さんに頼んでDVDに焼いてもらい、家族に、親戚に、近所の人に、デイサービスの利用者や職員に、果てはヤクルトを配りに来たおばさんにまで見せ続けた。最初は得意になってDVDを見せていたおじいちゃんだったけど、出先では映像を再生できない不便さに思いあたったらしい。そこで写真を撮った。おじいちゃんにパソコンの画面をキャプチャーするような高度な技は使えない。映像を一時停止して震える手でシャッターを切った。何度見ても、ほんとにつたない写真だ。ほとんどがぼやけていて何も見えない。でも、その中でも熱心に話すおじいちゃんの脇で、もうやめましょうよ。お父さん、そう言いたげなお母さんの表情と、早く次の取材に行きたいんです、そんなふうに目でおじいちゃんに合図するアナウンサーの目はうっすらとでも見て とれる。  その三分の中でも文字テロップ付きで強調されたのはたった一言だった。戦争は絶対にやっちゃいかん。もう二度と繰り返しちゃいかん。そんなことおじいちゃんでなくても言える。ひどくありふれている。どれだけおじいちゃんの話に中身がなかったかが分かる。そんな言葉でよければ、私にだって言えるだろう。戦争は絶対にやっちゃいけない。すごく悪いことです。もう二度と――。 「夜、寝とるときでも、少しでん物音がすると、すぐ起きなならんかった。国民党の連中が銃ば持っていつ出てくるかわからんけんな。早よ、起きれ! そんな命令ば聞くまでもなくおれたちはすぐに起きて、音がした方に銃を向ける。たいがいはキツネやら、イノシシやらそげなもんばっかりやけど、ほんとに銃ば撃ってくることもあるけんな。ババババババー。味方の人間が撃たれて倒れてしまっても気にしとる暇はありゃあせん。とにかく弾を撃ち続けるだけたい。ババババババー」     
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