春のひとひら

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 私は耳をふさいだ。人を殺すときのことをどうしてこんなにも熱をこめて話すことができるのだろう。人が撃たれ、死んでいくさまを、自分が撃たれようとしている場面を。草や地面があらゆる血で染まり、銃を撃っているさなかにもうめき声が四方から聞こえていたはずなのに。人殺し! ここまで我慢して黙って聞いていた私だったけど、ついそう罵りたくなった。人殺し。人殺し……。でも、ストレートにそんなことは聞けない。だから私はつとめて意地悪くこう尋ねた。 「おじいちゃん、人を殺したときどんな気持ちだった?」  それを聞いた途端、おじいちゃんの話がはたりとやんだ。 「ううむ……」  うなるようにして顔をしかめている。 「ねえ、おじいちゃん。教えてよ!」  私は尋ねるようにして責めていた。骨と皮ばかりになったおじいちゃんを。私をここまで育ててくれたおじいちゃんを。明日にも死ぬかもしれない、寿命のつきかけたおじいちゃんを。家族だからこそ、愛情があるからこそ、何か弁解の言葉がほしかった。  悪いことをしたと思うとる。じゃが、戦争やけん、仕方がなかったったい。心ん中じゃ、いつも悔いが残うとる。おじいちゃんの口からそんな贖罪の言葉を聞くことで、うちのおじいちゃんもやはり人間だったのだと安心したかった。私はおじいちゃんの目をじっと見つめた。  長い沈黙ののち、おじいちゃんは重たい口を開いた。 「分からん」 「は? なんて」  聞き間違いだと思った。     
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